第53号

オープニングエッセイ 雨宿りの小噺

「好きこそものの上手なれ」という言葉をよく分かっていませんでした。

好きで続けていれば上手くなれるってわけでもないと思います。上達したかったらそれなりにストイックにやる必要があって、自分は別にそこまでみっちりやりたいわけじゃない、ということの方が多いと思います。

そこそこでいい、そこそこで。


と、思っていたのですが、それだけではないと分かってきました。

前はできなかったことが、練習してワンステップ、ツーステップ上のレベルのことができるようになると、もっと楽しいと感じるみたいです。

もちろん、そこに至るまでには思い通りにできなくてむしゃくしゃして、「誰に強制されているわけでもないのに何やってんだ自分」と思ってしまったりもしますが、その先に楽しみがあるようです。

何より、本当に好きなことであれば、一度離れてしまっても、いずれはまたやりたくなって戻ってきてしまうものなのです。

人生は思ったよりも長いので、気長に頑張り続けるのがいいですね。


今月のピックアップ 『テラレジア・オーダー』歌姫は透明に消ゆ

すごく久しぶりの「今月のピックアップ」のコーナーです。前回の掲載はなんと第20号!!

もはや忘れてしまった方のために説明しておきます。不定期連載「今月のピックアップ」は、これまでに雨宿拾遺物語に掲載したお話の中から一篇を取り上げ、作者自身があれこれと自由に語っていくシリーズです。

これまでに掲載した記事はこちらから読めますよ。


さて、今回取り上げるのは『テラレジア・オーダー』から、第1話にあたる「歌姫は透明に消ゆ」です。

本編はこちらからどうぞ。


ところで、『テラレジア・オーダー』といえば雨宿拾遺物語の4周年+第50号を記念して連載開始した作品の一つです。この作品については公式YouTubeで公開中の記念インタビューでも少し触れています。今回の内容はそちらと一部被る部分もございます。雨宿の生声が聞ける貴重な(?)動画でもありますので、必見。

インタビュー動画はこちら


『テラレジア・オーダー』について

第一話の特集ということですが、その前にちょっとだけこの作品全体にまつわるお話をしておきます。

『テラレジア・オーダー』(以後『オーダー』)は『テラレジア・クロニコ』(以後『クロニコ』)の続編にあたる作品ですが、その基本構成はまるで違います。「人の認識や時空について言及した非常に複雑かつメタフィクショナルな問題作(?)」から「基本一話完結のバトルアクション」になったのですから、これは大胆な路線変更だと思うでしょう。でも実はね、『クロニコ』も元々は『オーダー』のような作品にしようと思ってたんです。


すなわち「テラレジアって国で王家の末裔とその相棒がいろんな悪者をやっつける話」というのが『クロニコ』の当初のプロットなのです。この頃は「歪んだ現実」に代表されるようなシュルレアリスム的なコンセプトはなく、ただ怖いもの知らずな二人組があっと驚く作戦で巨悪を滅ぼすお話でした。

ですが、書いている途中でちょっとした問題にぶつかりまして、いろいろ考えた結果、ストーリーを最初から考え直すことにしました。


もう一度プロットを組み直そうとしたその時、ふと思いついてしまったのです。


「この二人が実は、何度も何度も時空をループしていたとしたら?」


つまり、作中でアーク&フェルドは何度も絶対絶命のピンチを切り抜けます。ものすごい強運の持ち主。でも実はそれが「何十回 何百回と繰り返した中でたまたまうまくいった一回」だったとしたら?こんなことを考えてもう一度作品の構想を練り直した結果、生まれたのが『クロニコ』という作品でした。


これはこれで面白くはありました。だけど作品を書き終わった時こうも思ったんです。

「せっかく面白そうな世界観とキャラクターを作ったのにもったいない!」

てな感じで、改めて元々の作品構成に近い形でリブートさせたのが『オーダー』というわけ。


「基本一話完結」にしたのは他の目的もあります。『オーダー』という作品を「アイデアの実験場」にしたかったからです。

毎日の生活の中でふと「良いアイデア」が思いつく時があります。すぐにでも一本の作品に仕上げたいと思うんですが、その度に完全新作を描いてたのでは割に合いません。そういう時「一話完結の短編として『試し書き』できる作品があればなあ」と昔から思っていました。

「テラレジア共和国(王国)という割となんでもアリな世界観に、アクション、ミステリー、ロマンス、何でもこなせるアーク&フェルドとその周りの人々は、作者的に「すごくちょうどいい」のです。

ストーリー、キャラクター作り、科白回し、そういうものの練習場としてこれからも書いていきたいですね。


「歌姫は透明に消ゆ」について

「ちょっとだけ」なんて言いつつかなり長い前置きになってしまいました……。

ようやくこのお話について語れます。


まずサブタイトルですが、「第○話」という表記をやめました。第1話、第2話……と書いてあったら「1から読み始めなきゃダメだよね」って思っちゃうでしょう。この作品は一話完結でどこから読み始めたっていいのでこうしました。

それと、作品について語り合う時に「第○○話が面白いよね~」と言われてもイマイチ思い出せないですよね。なので基本サブタイトルで呼び合うことができるようにこうしました。とはいえそのサブタイトルが長すぎても短すぎてもいけないので、「漢字かな交じりで8文字」という制約をつけました。ちなみになぜ8文字かというと、Webページのデザイン上の都合です。(全角8文字がちょうどよく収まるギリギリ。)


「歌姫は透明に消ゆ」は『オーダー』の1話目にあたるお話です。プロットを組む上では「人気アニメ・ドラマシリーズの劇場版」を意識しました。

人気アニメ・ドラマシリーズというのは、もはやキャラの名前だけで話が通じるくらい有名ですから、本編の中で大真面目に解説する必要はありません。だけど劇場版は少し事情が違います。劇場版は「巷で有名だから」ってだけの理由で完全ご新規さんも観たりするわけです。だからメインキャラでも「どんな性格か」「どんな背景があるのか」はしっかり伝わるようにしなきゃいけません。制作サイドはこういった事情を踏まえていろんなアイデアを練ってるんですねえ。

というわけで、「歌姫は透明に消ゆ」でもいろいろ工夫してます。

・メインキャラクターの設定と性格がざっくり分かる

・アイドルという典型的なヒロイン(しかも80年代風で作品の年代設定が分かる)を登場させ、作品の方向性を伝える(主人公二人がゲストヒロイン相手にあれこれ頑張る話なんだなと分かる)

・王城を舞台にすることでアークがホントに王家の末裔なのだと強調

・オーダー周りの解説はあえてしない(細かく説明しても仕方ないので「敵を倒せる特殊能力なんだな」てだけ分かればOK)

……どうでしょう、僕の努力を分かっていただけたでしょうか。


メルメル、ことメルちゃんは国民的アイドル。まだ高校生です。実は「メル」という名前のアイドルは『クロニコ』にもこっそり登場しているのですが(EX2-2参照)、同一人物かは分かりません(いずれにせよ世界線が違いますので)。当初のデザイン案はモロに聖子ちゃんカットだったのですが、二次元キャラで聖子ちゃんカットを描くのが意外にも難しいことに気が付き、いろいろ試した結果後髪は僕の好きな髪型で落ち着きました。自分がかわいいと思う姿が正義!


先ほど「練習場」と言いましたが、そういう意味では本作はギャグの練習もしたいです。マンガという作品のすごいところは、ギャグとシリアスが隣り合うページにあっても作品として成立することです(小説・アニメ・ドラマではこんなに上手くいきません)。ところが実際に書いてみると、これがすごく難しい。


それから、本作ではオチの練習もしたい。普通の作品なら最後のページは「続く」で終わらせるのが当たり前で「オチ」を書く機会はそう多くありません。(まあ『お嬢おか』で毎回書いてるけどね。)というわけで一話完結の本作で「笑えるオチ」「ほっこりするオチ」「じーんとくるオチ」「ドキッとさせられるオチ」、いろいろ書いてみたいです。


大統領、じゃなくてローガンは今作もちゃんと登場します。だけど悪だくみをしてるわけでも、重大な伏線でもありません。ここぞという瞬間にアークたちの心の中に現れて、大切なことを問い直してくれる、そういうやさしい存在です。僕はいつも勢いだけで決断して、後悔したり失敗したりしてばっかりです。なので最近は自分の心の中にもローガンみたいな存在を用意して「本当にそれでいいのか」って一旦立ち止まるようにしています。


今回のピックアップはこれくらいにしておきます。本作はまだまだ始まったばかりですが、既にネタはいろいろ考えておりますので、あとはブラッシュアップさせて書くだけです。元々不定期連載の作品なので、アイデアを自分の中でしっかり詰めてから書き始めるようにしています。これも「思いついたらすぐ書き始める」これまでの雨宿からしたら新たな試みです。

まだまだこれからなアーク&フェルドの活躍に僕自身期待しています。


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