第35号

オープニングエッセイ 雨宿りの小噺

夏のいいところの一つは、洗濯物がよく乾くことですね。

梅雨の時期は一日中干してもまだ乾いていなかったりして、その上生乾きの臭いがして、罪はないのに洗濯物のことが嫌いになっちゃいそうです。

その点、夏はよく乾きます。朝のうちに洗濯を済ませて、外に干します。自分は窓を閉め切って冷房をつける。涼しい部屋の中の人間、炎天下で吊るし上げられている洗濯物たち。罪はない洗濯物たち。

……なんだか悪いことをしている気になってきました。昼頃にはすっかり乾いているので、早めに取り込んであげよう。


新連載『テラレジア・クロニコ』紹介第一弾

みなさま、お初にお目にかかります。

こちらは雨宿拾遺物語で10月から始まる新連載マンガ『テラレジア・クロニコ』の作品紹介です。

あたくしは案内役を務めます、テラレジア共和国大統領の秘書、ロディヤ・ハイルモンドと申します。どうぞよろしくお願いしますわ。


さて、先月突然発表された雨宿拾遺物語3周年企画の新作『テラレジア・クロニコ』は、みなさまご存知でしょう。予告では「まさかの週刊連載」を発表され、一体どうなることやら、あたくしも期待でキュンキュンですわ。

10月の連載開始はまだちょっと先ですけれど、この特集では作品の舞台、あらすじ、登場人物をドーンと紹介しちゃいますわよ。先月号で公開したキービジュアルを見て「男二人主人公なの?ヒロインはいないの?」と思ったおませさんもいらっしゃるでしょうね。ちゃんといますわよ、二人も。……あれ?あたしも入れて三人じゃないの?まあいいわ。

それでは順番に見ていきましょうね。


キービジュアル

こちらが本作のキービジュアルです。タイトルになっている「テラレジア・クロニコ」は直訳すると「テラレジア年代記」。そういう名前の歴史書があるんですのよ。そこから取っているんですね。

二人の素敵な殿方に、テラレジア共和国の街並み……この紋様は何かしらね。


作品の舞台 テラレジア

作品の舞台は1980年代前半のテラレジア共和国です。大陸の西端にあって、大西洋に面した人口二千万とちょっとの小さな国ですわ。

こう言われてもピンときませんか。では世界地図を開きまして……


この辺りにあります。スペインやポルトガル、モロッコなんかが近隣の国、海を挟んだ向こうに南北アメリカが広がってます。それからフェデライト共和国って国がお隣にあります。……ああ、みなさまの住む世界にはありませんよ?架空の国ですの。……ウフ、言っちゃった、あたしテラレジア国民なのに。

海も山も青く、暖かい気候に自然の恵みが豊かで、人はみんないい方ばかりですのよ。そりゃあもちろん、経済的にはまだまだな部分もありますけれど、この頃の日本と比べたらどこもそうでしょう?

テラレジアの文化はかなり「寄せ鍋」って感じですわね。西ローマ帝国の崩壊後に興った国であるテラレジアは、土着の文化は近隣のイベリア半島圏(スペイン・ポルトガル)に近いと言われていますが、中世に入ると北アフリカのイスラーム圏やフランス・イタリアのキリスト教圏の文化が流入しましたし、テラレジア王国が最大版図を誇った大航海時代にはアメリカ大陸から様々なものが輸入されました。近代に入ると再び西欧圏の影響を強く受け、王政廃止後の20世紀に入るとアメリカ合衆国のモノも文化も大量に流れこんできました。とまあ、いろいろな文化が混ざっているんですの。そうそう、現代では日本の家電が庶民の憧れですわ。

今の話にも出てきましたけれど、テラレジアは今は共和国ですが、およそ100年くらい前まではテラレジア王国といって、万世一系の王家が治める国でした。そしてそのテラレジア王家が、この作品の一番の肝と言えますわね。

あたくしたちの国、どういうところか分かってくれましたか。もう少し具体的なイメージを御所望なら、Googleでアンダルシアやモロッコの風景を調べてみるのもいいかしら。……ウフ、言っちゃった、Googleってこの時代はまだないのに。


あらすじ

ここでおしゃべりになるのは野暮ってものでしょうから、用意された原稿を読み上げるだけにしておきますわ。来月号ではもっと詳しくお話しできると思います。


西ヨーロッパから北アフリカにかけて広大な版図を手にし、アメリカ大陸まで影響力を持った強大な王国、テラレジア。時代と共に覇権を明け渡し、十九世紀の隣国フェデライトへの敗戦を期に王政が廃止、テラレジア王家は辺境の孤島に一世紀の流刑を言い渡された。

時は遷って現代のテラレジア共和国、ある男が初めて首府の土を踏んだ。失われたはずの王家の秘宝、王珠を手にしたアーク・ウエスト・〝テラレジア〟こそ、100年の時を経て本土に舞い戻った正当な王家の末裔であった。それと同じ日、「テラレジア一の喧嘩屋」ことフェルド・スターも10年の刑期を終えて刑務所を出所していた。何のえにしか出会ってしまった二人は王の威光を取り戻すため、我が物顔で振る舞う悪党共を須く罰する戦いへ身を投じる。一方、そんな二人に出会ったひよっこ新聞記者のカノン・ライカは二人の活躍を記した現代版・王国の年代記『テラレジア・クロニコ』の執筆を担うことになる。


登場人物

今回紹介するのは作品の中心的な登場人物である5人です。左から順にご紹介します。


アーク・ウエスト・〝テラレジア〟様。アーク様はその名の通り、この国を興したテラレジア王家の正統な子孫ですの。王家は王政廃止以来、大西洋の島に一世紀の流刑にされていたのですが、こうしてちょうど100年経った今、約束通り本土に戻ってきたというわけですわね。アーク様の夢は王政復古を成し遂げ、自らが玉座に就くことだそうです。やっぱり殿方の夢は大きくなくっちゃあ……ね?


フェルド・スター様。ひょんなことからアーク様と行動を共にすることになさった方。喧嘩がめっぽう強くて自称「テラレジア一の喧嘩屋」だそう。話に聞くところによれば10年間刑務所にいて、アーク様が本土に戻られたのと同じ日にフェルド様も出所なされたそう。殿方に語るに落ちない秘密があったって、あたくしは気にしませんわ。その方が魅力的ですもの。


カノン・ライカ、「テラレジオ・ポスト」社の記者の端くれ。大手新聞社の記者といっても勤めているのは首府の片隅にある小さな分社で、大した仕事もないようですけれど、まだ20歳にしては頑張ってますわね。自前のカメラは何やら思い入れがあるようですが、「カノン」で「ライカ」なのに持ってるカメラはポラロイドって……冗談がお上手ね。


エリセア。この格好を見ての通り、テラレジア清教の尼です。……といってもみなさまはご存知ありませんわね。テラレジア清教はテラレジア人の宗教で、エリセアはその聖職者というわけです。聖職者は俗世と縁を断ち切るので、名字を持っていませんの。聖職者はお酒もお煙草も厳禁で、恋愛なんて下賤な真似はもってのほかなんですって。あたしだったら堪えられませんわ。


テラレジア共和国大統領。名前はローガン・モルド氏といいますが、専ら「大統領」と呼ばれていますわ。あたくしロディヤ・ハイルモンドはこの先生のもとで秘書をやっています。こんなふざけたなりでも、立派に選挙で選ばれた大統領ですのよ。


以上が作品の中心人物たちです。……あたしが入っていないってことは、あたしはどうでもいいのかしら。

……まあ、その目……「なんで男二人には『様』をつけてヒロインは呼び捨てなのか?」って目をしていますわね。年下の女を呼び捨てにして何か問題でも?



さてさて、今回公開する内容はここまでです。来月の特集ではもっとたくさん見せられちゃう……かもね。あたくしロディヤは引き続き作品の紹介役と、連載開始後は予告を担当する予定ですから、末永くよろしくお願い致しますわ。

最後に何か質問は……っと、「なんでフェルド様やあたし、大統領は肌の色が濃いのか」って、そんな目ですね。自慢じゃないですが、あたくし、他人の目を読むのは得意なんですの。

これは至って普通のことですのよ。テラレジア人は遺伝学上はコーカソイド(白人)ですが、肌の色が濃い人も多いんです。日差しが強いからとか、歴史的に北アフリカ系人種やアメリカ先住民と交わったからだとか、理由はいろいろ考えられるみたいですけどね。このせいで歴史上、ヨーロッパ人とはいざこざがあったみたいですが、今のあたくしたちには関係ありませんのよ。

まあ、この辺りは物語の伏線でも何でもありませんから、そういうものだと思ってくださって結構ですわ。……ウフ、言っちゃった。

日本の殿方は小麦色の肌もお好きと聞きましたわ。あなたは、あたくしみたいな女はお嫌い?

……なんてね。また会いましょ、バイナラ、ラナイバ!



来月号ではさらに詳しい情報を公開予定!


連載作品・記事


お知らせ

『テラレジア・クロニコ』作品ページ公開!

10月に連載開始予定の『テラレジア・クロニコ』、作品ページを公開しました!

こちらからどうぞ!


また、作品の舞台「テラレジア共和国」を深く味わうためのガイドブック、『テラレジアの歩き方』も同時公開!作品の連載と一緒に随時情報を追加していくので、定期的にご覧ください。


第35号

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