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EX1-2

「――いいか、アーク。こりゃマジな話だ、自慢じゃないが、俺だって、くぐり抜けてきた修羅場の数は一つや二つじゃねえ。ガキの時にカタギじゃねえヤツらに取り囲まれた時はちとマズいかなって思ったし、刑務所ではしょうもなし共の覇権争いに巻き込まれて本当にうんざりする思いを繰り返した。それでも俺はここに座ってる。窓の外に夕暮れの商店街を見下ろしながら、どっかりソファに腰を下ろしてお前と話してるさ。だがな、そんな俺でも、今朝の光景は初めてだ。『アレ』は何がどうなってんだ?悪い夢だったのか?それとも寝てる間に変なクスリにでもやられたのか?そうやって混乱してる俺の隣で、アーク、お前はよ、平然と立ってやがった。出かけた途端に雨が降ってきた日みたいに『まあこんなこともあるよね』って余裕のよっちゃんイカときた。それでますますワケが分からなくなっちまったのよ。だからお前に説明を求める。今朝の事務所での出来事について、一から十まで全部。言っとくが俺はマジな話をしてるんだからな、下手に茶化されてもちっとも笑えないぜ。何から何まで一方的に詰め寄る形になって、こっちだって居心地がいいもんじゃないが、それでも納得のいく結論を得られにゃ腹の虫が収まらねえ。始終を聞いた後に俺は『然るべき行動』を取る必要がある。何てったって、この一件には他でもない、カノンのヤツが巻き込まれてるんだからな。」

「相変わらずお前の舌はよく回るよ、フェルド。……いや、茶化すつもりはないからそんな顔するなって。電気もつけず薄暗い部屋でここからじゃお前の顔はよく見えないけど、それでもどんなツラしてるかは何となく分かるんだ。とりあえず落ち着いてくれ、お前がそう思うのも分かる、お前の言葉の最後の部分は、余も同じだからな。今朝あんなことがあってから、この時間になるまで説明を渋ったのは悪かったよ。だが心中察してくれよ、この話題は……とにかく『ややこしい』んで、何度も説明を重ねたくはないんだよ。『一回で全部理解しろ』とは言わないが、『理屈詰めじゃなく感覚で理解してくれ』とはおことわりしておきたい。今朝の全貌を理解するのも大事なことだが、この先の方がもっと大事なんだ。フェルドが言う『悪い夢』とやら、我々はこれから何度も経験することになるんだからな。」

「ああそうかい。アークがそこまで言うんだから、これは厄介な話なんだろうな、長いか?」

「ああ、とっても。」

「――まず、一番懸念しているところからハッキリさせておこう。カノンは無事だ。命に別条はないし、頭がおかしくなったんでもない、ただちょっと……『寝ぼけてた』だけだ。今頃仕事は終わってるだろうが、いつも通りのアイツだよ。」

「そりゃ良かったよ。だが、その『寝ぼけてた』ってのがミソだな?『寝ぼけてた』は婉曲的表現で、本当はもっとややこしいんだな?」

「そうだな。すごーくざっくばらんに説明するとさ、『ハゲの編集長がブチ切れたから、カノンや仕事仲間や事務所全体が歪んじゃった』ということだよ。……まあ何事も段取りが大事だ、順を追って話そう。この『編集長がブチ切れたから辺りが歪んだ』という事実はいくつかの事象の複合であって、それを一度に説明しようとすると一層ややこしいことになるんだからさ。……そうだな、3ステップくらいでどうだろう。」

「はあ。これじゃ授業みたいであんまりだ。教師ってのは俺が最も苦手とする人種なんだぜ。その次が宣教師。」

「どっちも『教師』じゃんか――まあいいや、一つ目からいこう。大前提として、『我々が見聞き体験するこの世界について、真実と現実は似て非なるものだ』ということ。真実とは、物事のそのままの在り様、普遍の理。その一方で現実とは、個々人の認識が作り上げるもの。言うなればさ、テーブルの上に置いてあるオレンジが真実だとすれば、現実は、我々一人一人が手に持ってるカメラでパシャっと撮った写真だな。当然、持ってるカメラが違ったり、撮り方が違えば写る写真も違って見えてくるはずだ。そこら辺はカノンの方が詳しいけどさ。『感度が……』とか『絞りが……』とか言ってるだろ、アイツ?つまりそういうことなんだよね。」

「ええとつまり、真実の在り様はたった一つ通りであっても、それを認識する俺たちにとって現実は人それぞれに存在すると?」

「分かってるじゃん、今回のフェルドくんは賢いかもしれないな。……いや、そんな顔するなって、見えてなくても見えるんだよ。」

「言いたいことは分からんでもないが、だからといって、それぞれにそこまで違う現実が映ることってあるもんかね?カラカラに渇いた人間にすりゃ一個のオレンジが宝石のように見えることもあるかもしれんが、オレンジ農家の子供にすれば食べ飽きちまってありがたくも何ともない。同じオレンジを見た時の違いなんて、せいぜいその程度だろうよ。」

「そうさ、『普通なら』ね。ここで次のステップ。『人は強い感情によって真実とはかけ離れた現実を認識することがある』。よく『目の前が真っ暗になった』とか『カッとなって周りが見えなくなった』て言い方するよな?言葉のあやのようでいて、あれは核心を突いている。何かめちゃんこショックなことがあったり、とんでもなく腹が立つことがあったりして、その人の周囲に対する注意力が著しく低下した、すなわち、認識能力がおかしくなっちゃったってこと。だから比喩表現でも何でもなく、確かに、その人間にとって周りの現実はおかしくなっていたんだよ。このように、強い感情に支配された時に、個人の認識する現実は真実のそれと到底かけ離れた姿に変わり果ててしまうんだな。……まあ難しいだろ?最初に『理屈詰めじゃなく感覚で理解しろ』って言ったのはこういうわけだ。」

「分かるぜ、なんとなくは、な。俺にもそういう経験はあるんだ。……喧嘩の時じゃねえよ?喧嘩をする時ってのは、いつでも、頭だけは冷静でいなくちゃならねえからな。例えばそう……初めての店でいろいろ飲み食いして、最後に伝票を見たら0が一つ多かったときとかな。」

「多かれ少なかれ誰にだって経験はあるだろうな。それで、本題に戻るけど、ハゲの編集長は今朝なんて言ってたよ?」

「『分からず屋のカノンを怒鳴りつけてやった』って自慢げに……ああ、そうか。これも強い感情だな。」

「そういうこと。余があれだけダメ出しして添削を繰り返したんだ、カノンは『テラレジア・クロニコ』に絶対的な自信を持ってた。だから編集長が何も知らせずにボツにしたことに対して強く抗議したんだろう。いつになく反抗的な態度、いつもならペコペコして従うはずなのに……怒り心頭に発し、ヴェスヴィオ火山以上の大噴火をした――というのが今朝のあらましだな。」

「……しかし、下の階でそんな大災害が発生してたってのに、俺たち二人ともグースカしてたとは、我ながら……まあいいか。とにかくその時、ハゲ親父の現実は狂っちまってたってんだな。それがあの事務所の光景だとしたら……じゃあカノンたちはどうなっちまったんだ?なんでそれが俺たちにも見えてたんだ?」

「それはもう少し待ってくれ、まだ話は続くからな。最後には全部分かるように話すつもりだからさ。3つ目のステップに行こう。『強い感情は他人に干渉する、そして現実も』。これは先の二つよりも分かりやすい話だぞ。例えば、子供がこっぴどく叱られたらしばらく青菜に塩かけたみたいになるだろ。他にも、自分には関係ないことなのに、隣で泣いている人がいたから何となく自分も泣けてきたってことも。つまり何が言いたいかってと、強い感情を抱く人間が近くに居れば、周りの人間もそれに影響を受けるってこと。な、単純だろ?」

「そうだな、分かりやすい話だ。……アークみたいに人並みの感性を備えてない人間には伝わらないだろうけど。」

「言ってくれるなこの喧嘩バカがよ。いつもナンパだなんだって街に出て行く割に、ギャルを捕まえるのはいつもお前じゃなくて余じゃんか。」

「ウソ吐け。女がお前の呼びかけに応えるのはな、襟元に金ぴかの金枠がついた玉をぶら下げてっからだ。いいか、それはお前の実力じゃねえ、『金玉』に頼ってるだけなんだよ!」

「言ったなこのジジイ頭!王の威をもって須く罰してやる!」

「……」

「……」

「……話が進まねえから続きいこうぜ。」

「……ああうん。……愚かしくもこの場で再現してしまったが、このように強い感情は他人に影響を与えるわけだな。振り返って、さしものカノンも今世紀最大級の怒りを目の前にして、すっかりやられてしまったんだろう、ハゲ頭の言いなりになって……現実がおかしくなった。」

「ちょっと待てい。カノンが言いくるめられたのは想像通りだが、それでなんでアイツや俺たちの現実までおかしくなってんだ?もちろん理屈じゃねえってことは重々承知の上ではあるけども、そこんところ話が飛躍してるぞ。」

「これが『言いくるめられた』なんて甘っちょろいものじゃあないんだ。度を越して強い感情に当てられたら、周りの人間は正常な思考力まで失う、まさしく『感情を支配されてしまう』んだ。それってつまり、元凶たる人間の認識する現実の中に『呑み込まれた』も同然なんだよ。余はこんな状況のことをそう呼んでる。フェルドの言う通り、この辺りは感覚で理解してくれよ。」

「初めてづくしのことで分かり切った気はしねえが、おおよそは掴めたさ。だが今の話を聞く限りじゃカノンが無事だとは思えないんだが。今すぐにでもあの親父の毛根を根絶やしにした方がいいんじゃねえの。」

「案ずるな、あの歳でアレならヤツの毛根はそう遠くない未来に全滅する。……カノンは大丈夫だよ。アイツは一年以上もあの男の下で働いてきたんだ、今さら一回の叱責くらいで心が廃れたりはしない。『現実に呑まれる』といっても、それはいつまでも続くものじゃない。元凶となる人間の心が別な方向へ動いたり、本人が物理的に距離を取ったりすれば自然と元に戻る。カノンはきっと、ヤツの現実に呑まれていた今朝のことについては記憶があいまいになっているだろうが、それ以上は悪くならない。それでも限度はあるがね。ところで動物の調教ってどうするか知ってるか?」

「調教?そりゃあ、言うことを聞かせるようにムチで叩いてさ……。」

「いいや、最初はとにかく叩く。何もしていなくてもだ。繰り返し、繰り返し、何度でも……そうやって絶対的な主従というものを覚え込ませるんだ。そうしてムチで叩かれ続けた獣は命令に従い続ける家畜に変わる。現実に呑まれるってのも同じようなものでさ、一度や二度やられるくらいじゃ深い傷にはならない。ところが、長時間接し続けたり、何度も何度も何度も現実に呑まれることを繰り返せば、彼らはいつしか自分自身の思考を失い、主の感情通りに動く傀儡にされてしまう。カノンは毎度のごとく編集長にクドクド叱られてるが、ヤツはそこまでやる男ではない。今日のことは相当のイレギュラーだっただけだろうな。カノンは無事だよ。」

「……『今のところは』と付け加えておくぜ。」

「安心しろ、カノンがああしてペコペコしてるのを見続けるのもあんまり癪だから、こんなのは今夜限りで決着をつけるつもりだ。」

「ああ……。だが、疑問はまだ全部無くなっちゃいないぜ。ここまでの話は分かった、けど、問題はその後なんだ。俺たちは階下に降りてきた時点でことのあらましを何一つ知らなかった。それでも、事務所の扉を開けた瞬間――いや、正確にはその直前から、現実はハゲ頭のものに変わっていた。そこんところが今一つ理解できねえよ。俺たちはヤツにやられてない……ってことでいいんだよな?」

「そうだ。3ステップで説明し終えた以上、ここから先は少し話題が変わってくる。余の血筋、テラレジア王家と、『これ』にまつわる話だ。」

「ああ、『金玉』?……冗談だよ、悪かったって。そんなに睨むな。見えてなくても見えるんだよ。」

「次言ったらぶっ飛ばすからな。……歴史書『テラレジア・クロニコ』にも記されている通り、これは王珠といって、王冠、王笏に並ぶテラレジア王家の最も重要な財産とされる三宝の一角だ。王家の三宝ってのはそれぞれ王家の力を体現する存在でもある。王冠は唯一の位に立つ権力の象徴、王笏は無敵を誇る強大な軍事力の象徴、そして王珠は――よく地と民とを治め繁栄をもたらす執政力の象徴。王冠と王笏は世界各国の王家に共通する存在だからよいとして、魔力を持つと言われる宝石が執政力の象徴とはどういうことだろうか?……余が思うに、民を従えるには民心を推し量ることが大事だろ?それすなわち、彼らの感情を量り、彼ら自身の現実を把握することだ。これってさっきまでの話と通じるよな?というわけで、これは余の憶測に過ぎないが……歴代の王は民の現実を垣間見て、時には相手を王の現実に取り込むことで民を治めてきたのではないか、と。そしてこの王珠がその力を強める役割を担っていたのではないか、と。根拠のない想像だが、多分合ってると思う。その証拠に、王たる余は生まれついてしばしば他人の現実が見える。」

「は?マジに?」

「マジ。子供の頃はこれが普通だと思ってたんだけどさ、どうやらそうじゃないらしいって気付いたのは少し大きくなってからだ。」

「ええ……じゃあお前が横で真面目そうに話してる時、俺が話を聞いてるフリして頭の中では前を歩いてる女のスリーサイズを必死で推測してたのも見えてたワケ?」

「余は現実の認識が歪んでる時にそれが見えるってだけで、別にテレパシーが使えるワケじゃないかんな。あと、フェルドの考えはだいたい顔に書いてあるぞ。」

「それはお前の言えたことじゃねえよ?今度ポーカーしようぜ、もちろん賭けアリでな。全財産むしり取ってやるよ。……と、それはさておき、今朝は俺にも見えてたんだぜ、こりゃどういうこっちゃ。まさか俺も王の素質アリ?」

「無えよ。億に一つも。お前さあ、余が許可してないのに王珠にベタベタ触ってたろ?きっとそれで見える力くらいならついたんじゃないのかね。」

「ちぇ、つまんねえの。」

「この力のおかげで命拾いしたんだからそれだけでめっけもんだ。いいか、現実に呑まれる危険があるってのは我々も同じなんだからな。何も知らずに今朝の事務所で編集長と話してたらどうなってたことか……。いくら毒性が高くとも、色のついてないガスより色付きのガスの方がずっとマシだ。」

「俺たちが今朝のカノンみたいに……?想像するだけで反吐が出る。それでアーク……お前、最初に言ってたな?『こんなのをこれから何度も経験することになる』ってよ。最後に訊きたいのはそれだ。上も下も分からなくなっちまうような奇妙な体験を、これからうんざりするほど向き合ってかなきゃならないって?」

「あくまで『そうなるだろう』って話だよ。フェルドにも見えるようになったんだから、そりゃあ一度きりでおしまいってことはないだろうさ。初めのうちは慣れないかもしれないが、さっきも言ったように、便利な代物でもある。実際、余の先祖はその力を余すところなく振るって王国を治めたのだからな。次に同じような経験をするといえば……今夜だな。」

「今夜、と。」

「このままやられっぱなしってんじゃ喧嘩屋の名が廃る……だろ?」

「当ったり前だ!お前があそこで止めなきゃ、俺はあのハゲに一発、いや、それどころじゃなく食らわせてやってたんだぜ。今だってあのツラ思い出しただけでムカっ腹が立つんだ。アークよお、お前も今朝から澄ましたフリしてるが、本当はそうじゃねえってこと、俺には分かってんだからな。」

「まあな。だがねえ目的ってものを忘れちゃならん。ハゲ頭をぶん殴れば意趣返しにはなるかもしれないが、それでヤツは新聞記事の掲載を許可するだろうか?部下への態度を心から悔い改めるだろうか?やり方を変えなきゃカノンの努力は報われず仕舞いだ。」

「そこまで言うからには策があろうな?」

「モチのロン。同じことを仕返してやりゃいいんだ。現実に呑まれるとはすなわち、相手の感情に圧され、屈服するということ。だったらこうするのはどうだ――編集長をこっちの現実に呑み込んでしまえば、完全に打ち負かしてこちらの要求を呑ませることができる。」

「ほう、なるほどな。王家の血を引いていて、王珠を持つお前ならかつてのテラレジア王と同じことができるって算段かよ。面白え、俺も乗った。」

「よしきた。こっちの現実を叩きこんでやるというのは、理屈は存外単純なんだ。一流の武闘家は気迫だけで相手を滅することができるという、それと同じだ。あっちの現実とこっちの現実、ぶつけ合って強い方が競り勝つ。」

「喧嘩の本質だな。殴り合いは表面の薄っぺらいところに過ぎなくて、その影で繰り広げられる、戦意を奪うための精神のぶつかり合いこそが真の争いなんだよ。それもただ単に正面からぶつかり合うってだけじゃ、二流のすることだな。喧嘩の鉄則は相手の意表を突くこと。予想外の策で出し抜く、一度は勝ったと油断させる、目論見が外れた時の焦り……そういうのは全部、戦意の喪失に繋がる落とし穴だ。」

「やっぱりお前はいいことを言う。こっちの現実を叩きこもうとすることは、イコール強い感情の発露でもある。感情的になればなるほど注意力や判断力が低下していくから、裏を返せばそれだけ相手の現実にも呑まれやすくなるというわけだ。この戦い、攻撃と弱点を晒すことは表裏一体なんだ。」

「であれば、尚更無策に突っ込むワケにはいかねえよな。でもお前はそこんところも考えてあるんだろ?ぶっちゃけた話、この時間まで行動を起こさずにいるってのも、策のためなんだな?」

「鋭いじゃんか、フェルド。余は時を待っていたんだ。そして今、機は熟した。そろそろ出かけようか。」

「行くのか、ハゲ親父のところに。」

「天を突く傲慢を打ち砕き、王の威をもって須く罰す。」

「おうよ。テラレジア一の喧嘩屋にウリを掛けたこと、後悔させてやる。……ところで、ヤツがどこにいるか知ってんの?今頃はとっくに会社を出たろ?」

「ああ。今日が金曜日なら、ヤツは『夢気分』でいるはずだよ。」


「……アーク。あと一つだけ訊いてもいいか。」

「何だ。」

「お前はその王珠を使って、歴代の王と同じことができるんだな。」

「『おそらく歴代の王も使っていただろう』というだけで、そうと決まったわけでは……まあ、そうだよ。」

「そうか。」

「それだけ?」

「いや、なんだ、その……王政復古のために、その力を使うのか?」

「使うだろ、そりゃあ。我が王国に跋扈する不倶戴天の輩を須く罰するためならな。」

「しかしよ、それ以外にも、使える……だろ。」

「ああ。それって問題か?」

「誰にでも使えるとなると問題だ……何となく、な。」

「分かった、約束するよ。お前が懸念してるような使い方はしない。それに、絶対的な服従によってのみ為される統治が長続きしないってのは、世界中の歴史が証明していることだしな。」

「それを聞いて安心したよ。……いや、すごく。」

「フッ……。フェルドは喧嘩屋にしては優しすぎるのが難点だな。」

「……んなこたあねえよ。」