表紙のエリセアが持ってる花はカモミールです。『テラレジア・クロニコ』にも登場していた花で、花言葉は「逆境に堪える」だそうです。
春になるとあちこちで花が咲いていますが、その中でもカモミールのようなキク科の花はたくさん見かけますね。(カモミールに似た白い花びらで真ん中が黄色いものはヒナギクやフランスギクのようです。)
しかしながら、花というものはその季節だけそこに生えているわけではありません。元々そこにいたのに、こちらが見向きもしてこなかっただけなのです。そう考えると、花が咲いている季節だけちやほやするのは浅はかに見えてきます。
もしかしたら他にも、普段は見落としているものがあるかもしれません。
誰かの努力とか、日々の仕事ぶりとか――大きな実を結んだ時だけ讃えるのではなくて、もっと身近に気付けたらよいのかもしれません。
厳しい逆境にもめげない人、それに気付いた時にこそ、その人は夕陽のように熱くまぶしく見えるのです。
『お嬢おか』では現在、中編「美北に生きた時」が連載中です。お母様の故郷、美北町(みきたちょう)を舞台に、2つの時代にまたがって繰り広げられるストーリーという、いろいろと異色の構成でお送りしています。
お話はまだまだ途中ですが、本編をもっと楽しめるよう、この特集は「『美北に生きた時』編にまつわる小ばなし」と題していろいろなお話をしていこうと思います。
まだ読んでない人も今から間に合う!(そもそもこれを見てるのに読んでない人っているのか……?)
中編「美北に生きた時」(美北編)は年一回くらいのペースで連載しているお嬢おか中編の中の一つとして書かれたものです。
中編は言うなればお嬢おかにおける「ストーリーの本筋」のようなもので、大きなイベントと共に登場人物の関係性や心情に変化の兆しが現れるのが特徴です。その中でいえば、美北編は時子(お母様)の故郷を舞台にして〝家族のあり方〟が描かれます。
では、どのようにして美北編は誕生したのでしょうか。
そもそも、お嬢おかという作品はだがしやサトーと結子店長を中心に展開されるお話なので、必然お話の舞台は地元である中辻の街か皇ヶ崎学園のある都原に限られてくるわけです。(例外として1999東京編がありますが)
その一方で別な土地を舞台に結子の活躍を描いてみたい、という思いもありました。
ベタな展開なら「神之目家に別荘があって休暇にみんなで出かける」とかが考えられますが(いつか書こうかな)、中編として描くからにはやはり本筋に大きく関わってくる、ストーリーのヤマにしたいわけです。
そこで、これまで描かれてこなかった時子の実家のことを入れてみることにしました。
時子――お母様の過去についてはこれまでにもいくらか示唆されてきました(特別編4など)。東北出身で高校卒業後に上京して女優としてブレイクしたようです。普段の性格を見るにごくごく一般的な家庭で育ったわけではなさそうだというのはみなさんも感じてたところだと思いますが、こうしたお母様の素性について、1999東京編の続きという形で描いてみることにしました。
ちょっと待って!
それじゃあ結子が登場しないじゃん!
はい、確かにそうです。「結子が別な土地で一皮むけること」と「時子の生い立ちをめぐるお話」、その二つを描くシステムとして、「同じ街を舞台に、1999年と現代二つの時代で物語が進んでいく」という少々トリッキーな構成を思いつきました。
どうなるか不安でしたが、いざ書いてみるとそれなりに舞台装置や起承転結がうまくリンクした気がします。
「美北編」の舞台は東北の田舎町、美北町です。どんな街なのでしょう。
はじめに言っておきますが、美北町にモデルとなった街はありません。ざっくりと「東北の田舎」を描いたもので、みなさんが「日本の原風景」と聞いて思い浮かべる景色とそう違わないと思います。
一方で、それなりに実情を捉えていると思います。
雨宿は他のアニメでしばしば見られるような、テンプレート的な「田舎の農村」がそんなに好きではありません。すなわち、「のどかで平穏、住民のほとんどは昔ながらの暮らしをする農家で、誰も皆親切……」というような姿のことです。フィクションとしてはいいですが、それを観た人が現実の田舎町さえも同じように「理想郷」として考えるのは実情に合ってないと思います。
実際の田舎は「相続の関係で放置された土地があって乱開発された形跡があり、昔の価値観と現代の価値観が中途半端に融合した不自然さがあって、暮らしていくにはそれなりに人間関係のしがらみがある」場所です。悪いことばかりじゃありませんが、そこそこ複雑です。
話がそれましたが、そういうことも考えて美北町を描く上ではある程度のリアルを盛り込みました。
田舎といえど車で行ける距離に全国展開するショッピングモールがある(○オンですね)、街の真ん中に昔何かに使われていた建物を改装した「地域交流拠点」なるものがあって地元の人のたまり場になっている、そして人口減少と高齢化は深刻な課題、といった部分です。
そしてこうしたリアルな一面が後述する中編のテーマ(主題)につながります。
ところで、美北町はどこにあるのでしょうか。架空の街ですが、多少推測はできます。
特別編7で時子と結子がこまち(E6系)に乗っていますから、東北新幹線の盛岡までか秋田新幹線のどこかが最寄りの新幹線駅です。第56話②でも満爾がこまち(E3系)に乗っているのでやはり秋田新幹線で間違いなさそうです。
そこから在来線に乗り換えて移動したどこかが美北駅です。とすると次に気になるのは内陸側(大曲とか)か沿岸側(秋田市とか)のどちらかということですが、どの方角を見ても遠くに山が見えるので盆地、つまり内陸側のようですね。
ちなみに、登場人物の方言はわざとデタラメです。あんまり忠実に書くと何言ってるか分からなくなる可能性があったので。(言うなればエセ東北弁……?)
お嬢おかは結子たちの物語と共に、様々な話題を取り上げてきました。
特に中編では「日常モノの定番」といえる展開をちょっと変わった切り口から取り上げるということをしてきました。
「中辻夏祭り編」ではド定番の夏祭り展開を「開催する人たちの苦労」というテーマで、
「Film de Nakatsuji編」では文化祭と映画制作を通じて「映画制作を取り巻く環境」というテーマでした。
では美北編はどうでしょうか。田舎の夏、というこれまたド定番ですが、テーマは「地方の衰退」です。とりわけ、1999年と現代、両方の時代で描かれることで「90年代から言われていた地方の衰退が20年の時を経て実際に進行した姿」が強調されています。これは美北という架空の街を舞台にしたお話ですが、同様の問題は日本のどこでも当たり前に見られます。
美北の問題に、結子たちはどんな答えを見つけることができるでしょうか。それを読んで、みなさんにもぜひ地方の姿に思いをはせてみてほしいと思います。
さてさて、お嬢おか「美北編」は8月まで続きます。これからもよろしくね。
私事ですが、当Webサイトの管理人、雨宿拾遺は5月24日をもってまた新たに歳を取りました。
例年だとお祝いイラストを自分でこさえていたのですが、今年は気が付いたらそれすら忘れていました……。
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※こちらは大昔(2021年)に描いたイラストです。今と顔つきが違うね、結子店長……。
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