今月号の表紙は星空です。
星空はいつ眺めたっていいものですが、僕はこの季節、本格的な夏になる前の星空が一番好きですね。
まだ昼間の温さがわずかに残っていて、それでいて少し肌寒い夜風に吹かれながら上を見上げると、東の空の夏の星座も、西の空の春の星座もよいものです。
ところが、最近星空見てません。
偉そうなこと言っといてからに何なんでしょう。
それでも夜道を歩いてる時、明星は僕の目に飛び込んでくるんですね。
一等かがやく星は探さなくたって自然と目が向く。決してみんなの前でかがやく必要はないけど、せめて自分で自分に気付けるくらいはかがやいていたいものですね。
雨宿拾遺物語に掲載中の作品について、原作者自身が様々なエピソードを語っていく不定期コーナー、『今月のピックアップ』。今回は前号(第8号)で連載された『お嬢店長おかしまし』こと『お嬢おか』第10話を取り上げます。
例によってまだ読んでいらっしゃらない方はこちらからどうそ。
かねてよりお伝えしていた通り、本作は第10話までが導入部といえる内容になっています。もちろん今後も様々なストーリーが展開されていき、新キャラも登場するわけですが、作品全体の雰囲気と主題としてはここまでの内容が一区切りと言えます。第10話まで180ページ、ちょうど単行本一巻分です。単行本……出たらいいねえ。
第10話「神之目満爾とサトー閉店の危機!(後編)」は第9話からの続きとなっております。なのでまずは第9話までのあらすじから確認しましょうね。
母、神之目時子に続いて父、神之目満爾にもサトーのことを知られてしまった結子店長。外出禁止にされ、サトーは営業休止を余儀なくされる。意気消沈の結子は学校でもどこか上の空。店長の正体を知る中辻高校の常連たちはそのことを悟り、政直は家を出る満爾と顔を合わせ、営業が認められるように直談判するのだった。
たしかこんな内容だった気がします。〇etflixの作品紹介並みにあらすじ書くの下手だなオイ。勘弁してください、僕は編集者じゃないの。
2ページです。勇気を出して直談判しに行った政直くんを姫乃ちゃんが労うシーン。いいですね。中辻市と神之目家の関係は描ききれてませんが、人々に慕われている神之目さまにアポなしで会いに行くなんて相当に畏れ多いことなのでしょう。
政直くんは店長に対してはめっぽう不器用な男ですが、親友に対してはさらっとベストアンサーを出せるんだから、流石は幼馴染です。なぜこの回答がベストアンサーなのかは割愛します。今は分かんなくても大丈夫。
回想シーン。店長の幼い頃の姿が印象的です。実はこれも構想段階から描きたかった。幼き結子店長が髪を伸ばし始めたのは、お母様に憧れたからだそうです。
お父様の台詞はこの作品の主題です。知的好奇心を満たして幸せになれる生き物なんて、人間の他にいないでしょうね。だから僕はこの作品を描いたのです。
7ページ、経営の何たるかが分かっていない店長をお父様が叱責するシーン。実は第9話の最後でお父様が向かっていた場所はサトーだったんですね。「結子、お前の父はこの国で誰にも劣らぬ商売人なのだぞ。」って言ってみたい。つよすぎる。
余談ですが、お父様はこの時勉強机の椅子を逆向きにして座っています。帳簿を隠し持ってるのがバレないようにでしょうが、僕はこの座り方がなぜか好きです。他作品の印象的なシーンで見かけたからかな。正しい座ると威圧感を与えてしまいますから、こっちの方がラフな感じがします。もしかしたらお父様自身、面と向かって真っすぐ座るのがちょっと恥ずかしかったのかもね。この座り方は股を大きく開くので、基本的に男の人しかできないってところも味があるの。
9ページ、ハイここでマル秘情報。
初期構想ではここで店長がハグすることになってました。
結果的には握手になりました。これはどうしてか、考えれば単純です。日本のビジネスマンはハグしないからです。
ここはお父様が初めて結子店長を「娘」ではなく「一人前の社会人」として認めたシーンです。だったら店長もそれに応えてハグっていう「娘らしい」行為じゃなくて、社会人の挨拶で返すべきじゃないの?と思い直して書き換えたんです。両手を取ってるのは初期構想の名残とも言えますね。
このあと、お父様は『神懸の目』についての真実を口にします。『神懸の目』といえば、第1話でその名が登場しておきながら、以来それっぽいものが一向に現れないことについて疑問に思っていた方もいらっしゃるでしょう。「目が光ったりしないの?」「作者が設定忘れたの?(まだ連載始まって一年も経ってないのに忘れるわけないでしょ!!)」
答えは「そんなもの存在しないから」です。何の超能力か知りませんが、目だけでそんなことできたら苦労しないっスよ。(そういうのは別の作品に任せます)でもそういう意味では、店長がこれから持ち前のカリスマを発揮するシーンはいくつもあるはずですので、ご期待を。
14ページ、回想シーンの解説してたときにしれっとスルーしてたことがもう一度出てきます。
店長ってお兄様がいるんですね。
いやー知らなかったなー(棒)
でも確かに店長が姉キャラか妹キャラって問われたら、妹っぽい感じしません?思いついたら即行動でそそっかしいところとか、地域の小学生に慕われて「お姉さん」であることに自分自身の憧憬が滲んでたりとか……。「言われてみればなんとなくそうかも」と思えた方は僕とシンパシー感じてますね。(嫌だとか言わないで)
お兄様、一緒に住んではいないようですが、今はどこに……?とりあえずは「いる(もしくは『いた』?)」ということを覚えといてくださいね。
17ページ、第1環を想起させるようなシーンのあと、政直くんが初めて店長に名前で呼んでもらえるシーン。よかったね。「店長」という立場が板についてからは初対面のお客さんでも名前で呼ぶクセがついたみたいですが、政直くんだけは最初期に出会ったので「木ノ内くん」のままでした。僕もこういうことあるなあ。すごく仲いいのに、初対面の頃に名字で呼んだクセが抜けなくて、今でも名字呼びの友人。だから店長はこの時意識的に呼び方を直したんですよね。そう考えたら政直くん、もうちょっと喜んでもいいんじゃない?
さて、随分長くなってしまったので今回はここまでにします。第10話は一番描きたかった回なので様々な小ネタやエピソードが詰まっているのですが、既に語りすぎてしまったのでまた今度。「全然気付かなかった~」ていう細部の表現あったと思いますが、すぐに気付かなくていいんですよ!先の展開を読んだ時とか、ふと思い出した時に読み返してみればだんだん気付くんですから。そのためにこのwebサイトでいつでも読めるようにしておいてるんだし!
では最後にお父様とお母様が詠んだ和歌の現代語訳を載せておきます。この二人に関わるエピソードもいずれ描きたいなあ。
ちはやぶる神の目《ま》の子で見てしがな娘の生ひ先幸多かるを
神懸の目というもので見てみたいものだなあ、私の娘が育っていく先の人生に幸せがたくさんあることを。
守りたまへ神の目《ま》の子にあらねども時が満ちては実を結ぶらむ
神懸の目でなくても見守ってください、(あなたの娘は)時が満ちたら実を結ぶでしょう
イラスト置き場を更新しました。
雨宿拾遺は5/24をもって歳を一つ重ねましたことをここにご報告させていただきます。
体力の絶頂を過ぎ、身体は老化へと向かっておりますが、この身に宿る熱意だけは冷める気配がございません。今後ともよろしくお願い申し上げます。
そういえばもう夏ですね。雨宿拾遺物語も夏休みに向けて、いろいろ企画中だとか……?
みなさまからのお便りお待ちしております。お便りはこちらから。
次回もお楽しみに!