第10号

オープニングエッセイ 雨宿りの小噺

第10号です。

……第10号ですって!ついに巻号が2桁に突入する時代ですか……。ちなみに、次に桁が増えるのは休刊がなければ2029年の1月となる予定です。その時僕は何歳だろう……。

記念すべきことはもう一つあります。実はこのwebサイトを開設するにあたって本格的な活動を始めたのが去年(2020)の6月くらい。だから僕にとっては今がちょうど活動一年なのです。実際の刊行は10月からでしたが、きもち早めの一周年ということで。


世の中、生まれては消えていくものでいっぱいです。人々の心は次から次へと、どんどんどんどん新しいものに移ろってしまう。世の流行はまるでわんこそばです。盛岡名物わんこそば、お腹いっぱいになったらどうすればいいか知ってますか?「もう要らないです」って言ってもやめさせてもらえないんだって!?

終わりにしたいときは、お給仕さんが次のそばを盛る前にすばやく器のふたを閉じなきゃいけないんです。(実際はそこまで厳しくないそうです)いやはや、実に『ワン』ダフル。

世間のわんこそばに一人で立ち向かうのは大変です。お腹いっぱいで動けなくなる前に、きもち早めにお椀にふたをしましょう。もう少し食べられそう?隣の人はまだまだ食べてる?――そんなにおいしいおそばなら、あとでゆっくり食べたっていいじゃないですか。

長く続けるには何事も緩急が大事。のんびりしていたらみんなに忘れられてしまいそう……。それでも、思い出した頃に帰ってきてくれたらそれでいいと思う。そうじゃなかったら、また別のやり方を試せばいい。心には常に余裕を持たせましょう。胃袋にもね。


今日のお昼ご飯はおそばにしようかな。


雨宿の昔話 ~デジャヴ~

少し、不思議な話をしましょう。好きですよね、みなさん。


僕が小学生の頃のお話です。2年生か、それくらいの頃のことです。

本題に入る前に、「デジャヴ」をご存知でしょうか。日本語で「既視感」というやつで、「明確にいつ、どこでだったかは覚えていないが、この体験を以前にしたことがある」という感覚になる現象です。まったく初めて来た場所なのに前も来たことがある気がする、初めて会った人なのに前に会ったことがある気がする……といった風に。そのミステリアスさから創作の題材になることもありますね。一説によれば一生のうちで多くの人がデジャヴを経験するんだとか。

今日はそんなデジャヴにまつわる話。


僕が小学校の頃の担任の先生は、おしゃべりなおばちゃんでした。授業の空いた時間にいろんなエピソードを話しておりました。子供というのは残酷で、つまらないときはすぐ「つまらない」と言いますが、先生のお話はめっぽう評判でした。話し方が上手だったんですね、最後には決まって教訓的な内容を交えて、さながら噺家といった雰囲気。

その日も授業の残った時間で先生は話を始めました。罠にかかった鳥の話、具体的な内容はもうほとんど覚えていませんが、罠にかかった鳥と見かけた人が助けようとあれこれやってみるお話だった気がします。こうまで記憶が曖昧なのには理由がありました。その時の僕は、ものすごく眠かったのです。

勘違いされては困るので言っておきますが、雨宿拾遺は優等生なので中学二年になるまで居眠りなんてしたことありませんよ。その後はまあ……午後の授業は寝てたりしましたけど。とにかく、その時は何かがおかしかった、としか言いようがないくらい眠かったのです。

寝ぼけた頭で必死に話を聞いていたのを覚えています。

数ヵ月経ってある日のこと、また先生のお話タイムです。「この話はしたっけ?」と先生は言います。お話のレパートリーが非常に多いので、時折前と同じ話をしてしまうことがありましたから、こう言って話を始めることがあるのです。

先生はエピソードの冒頭を話し始めました。罠にかかった鳥の話……なーんだ、それは前にもした話じゃん。

「それ、前にも聞きましたよ。」

僕は言います。すると、みんなが訝しげにこちらを見始めたのです。

「聞いたことないよ。」

みんなは初めて聞く話だと言うのです。おかしいな、隣の子に尋ねてみると、その子も首を横に振ります。

あまり大きい声では言えませんが、あの時の僕はほぼ寝ていた。記憶違いでもおかしくないなって思い直し、黙って話を聞くことにしました。

「鳥がかわいそうだから助けようとするんだけれど、人が来たことで驚いて鳥は暴れ、さらに傷ついてしまう――」

――やっぱり聞いたことあるぞ?

僕にはその先の展開が分かりました。そして先生の話はそれと一致していたのです。

すっかり話し終わって、僕は隣の子にもう一度訊きます。「聞いたことない」の一点張り、僕の記憶もみんなの主張も間違っていなさそうでした。

あの時の僕は何を聞いていたのだろうか?

寝ぼけた僕の記憶違いでしょうか、逆にみんなが集団催眠にかかっていたとか?もしかして二つの話は、似て非なるものだったのかもしれない。

今になっても答えは出ないままです。


これが僕のデジャヴの話。

あれから長い年月が経って、僕が人に話を聞かせる機会もしょっちゅうあります。友人と居る時、無言の時間が嫌いなので僕は雑談を始めます。すると友人は言います、

「お前その話、前も聞いたっての。」

デジャヴでしょうか、いいえ、ボケです。


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