第8号

オープニングエッセイ 雨宿りの小噺

今月号のサブタイトルは「また動きはじめる。」です。

みなさま既にお気付きのことかと思われますが、毎号のサブタイトルは表紙のイラスト、そしてこのエッセイコーナーの内容とかる~くリンクしたものになっています。ということは、今回の内容は「また動きはじめる。」ものなんでしょうか。

「また動きはじめる。」、"Restart."です。

先月から新年度がスタートしました。僕の身の回りはもちろん、僕の知り合いの多くもこの春から新しい環境に飛び込んだようです。

彼らに話を聞いてみると「今年度から新しく!」というよりかは「去年の春できなかったことを今度こそ!」というエピソードがそこそこある。そこで去年の僕はどうだったかというと、このwebサイトを開設するのに大忙しで世の中の事情とはおおよそ関係ないところで奮闘しておりました。とはいえ、時勢を理由に断念したこともちらほら。

今年の春は「スタート」よりは「リスタート」かな。そんな風に思える。

「一年間くすぶっていた」と言えばネガティヴですが、リスタートもそんなに悪いことじゃありません。気持ちをパッと切り替えちゃえばいい。

雨宿的にもこれからが「リスタート」です。『お嬢おか』の連載が当初から導入として用意していた10話まで到達しました。ここからは毎月のネタがどこまで続くかの勝負です。既にこれまでとは全く違う気持ちで取り組んでいます。それだけじゃなく、連載と変化した実生活をどう両立させていくかも新しい挑戦です。

大丈夫、ここからまた動きはじめます。


【特集】『まがたび』の妖怪とは何なのか?

どーもみなさま、作者です。

おかげさまで『まがたび』の連載が第4話を迎えました。1話32ページですのでこれまでに128ページ描いたことになります。まだまだ始まったばかりですが、意外と進んだな、という印象です。物語の「序章」と呼ぶべき部分は次の第5話までで、そこからさまざまに物語が展開していきます。

そんなこの作品を語る上で重要な要素の一つは「妖怪」でしょう。妖怪と言えば古くは日本の民間伝承に登場するもので、現在では和風ファンタジーに欠かせない存在となっています。その解釈も描かれ方も千差万別、ゆるっとまとめると「異質なもの」全体を指す概念になっている印象です。

それならば僕の作品における「妖怪」とはいかなる存在なのか、今日はその辺りをネタバレに気を付けつつ、さらっと記しておこうと思います。




前述の通り、妖怪に関する史料はたくさん残されています。有名なものは柳田國男の『遠野物語』。岩手県遠野に伝わる妖怪や、世にも奇妙なものにまつわるお話をまとめた作品です。

そんなこんなで文献がたくさんあるので、創作に妖怪が出てくると「この妖怪は何が元ネタなんだろう?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。『まがたび』に関していえば、すみません、

その努力、無駄です。

だってモチーフが無いんだもん。

本作における「妖怪」なる存在を語るには、ちょっと僕の昔話をする必要があります。


幼い頃、僕はよく「続きモノ」の夢を見ていました。

前に見た夢の続きを別な夜に見ることがそこそこあったんです。それは次の日だったり、もっとずっと後だったり、間隔はバラバラ。大抵は二、三夜で終わるくらいのもの。

そんな「続きモノ」の夢の中で、共通してしょっちゅう登場する「ヤツ」がいたのです。

「ヤツ」は影のように黒いモヤモヤした存在で、人型をしていて、背丈は2m以上はあったかな、顔無しのいわゆるのっぺらぼう。そうそう、海外で言うところの「スレンダーマン」に似た感じです(でも当時の自分はスレンダーマンを知らないので違う)。とにかく不気味なヤツで、話しかけてきたり追いかけてきたら恐ろしいものですが、そんなことは一切せず、そいつはいつも僕を『見ていた』のです。

夢の内容には干渉してこないで、常に少し離れたところで立っている。こちらの動向を観察するかのように。

僕はとにかく「ヤツ」が苦手でした。当たり前でしょ、黙ってジロジロ見られて(目は無いけど)いい気分になるはずがない。かといってこっちから近付きたくもない。「もしかしたら『ヤツ』は昼間も自分に付きまとってるんじゃないか?」そんな風にも思いました。


これが「妖怪」の元ネタです。

影のようにモヤモヤして不気味なテクスチャに、邪悪さと暴力性をプラスして「妖怪」という存在は描かれています。

おそらく幼い頃の僕に「『恐怖』を絵に描いて」と言ったら「ヤツ」のイラストを描いたことでしょう。「妖怪」も同じなんです。「食べられる」「呪われる」といった具体的な危機よりは、

『恐怖』そのものの象徴、それが「妖怪」です。

フランクリン・ルーズベルト大統領ではありませんが、我々が唯一恐怖するべきは恐怖そのものである――そういうわけです。本作の妖怪は「引き裂かれるから恐い」というよりも「恐いから恐い」なのです。その点ではある種の抽象画だと言えるでしょう。

……あんまり長い時間見つめない方がいいかもしれません。気が狂っても知りませんよ?




思ったよりヒンヤリした話題になりました。暑い季節を前に悪くないよね。

そんな恐ろしい存在に彼らはどう立ち向かっていくのでしょう。そして向かう先に何があるというのでしょう。

ちなみにですが、もう完結までのストーリーは決まっています。台本もおおよそできているので、ただひたすらに描くのみです。

今後もお楽しみに。


連載作品・記事


お知らせ

『お嬢店長おかしまし』の更新が第10話を迎えました。この作品についてですが、今後1話あたりのページ数が前後することがございます。毎話15~18ページの原稿となる予定ですが、この限りではありません。予めご了承ください。


裏表紙

みなさまからのお便りお待ちしております。お便りはこちらから。

次回もお楽しみに!