第6号

オープニングエッセイ 雨宿りの小噺

おかげさまで創刊から半年を迎えることができました。創刊号からお読みの方も、つい最近このwebサイトを知ってくださった方も、感謝申し上げます。

そんな折にふさわしくないことですが、ちょっと弱音を吐きます。

この半年書きに書いてきた作品の数々をずらっと並べてみて、大変だったなあとため息をつく。その後にこの先のプロットをちらと覗くと、もっと大きなため息がでます。まだまだまだ先は長い、けっこう登ったかなって上を見上げたら、頂上を遥か彼方に望んだような、そんな気持ちです。

それだけじゃなくて、頭の中はさらにぐちゃぐちゃです。いつかやりたいこと、時間の都合で進んでないこと、今の自分には難しくてできないこと……あれやこれやがこんがらがってちっとも前に進んだ気がしません。

作業の手を止めて外に出て、気が付けば流れている春の芽吹きの風に呟きを漏らすのです。

「あと何年あればぜんぶできるのかな?」

僕でさえ分からないのだから、誰にも分かるはずはない。その代わり、風は誰にでも平等に吹く。

それを肌に感じながら、自分の心に呼びかけるんです。

大丈夫。今はまだ、これくらいがいい。


連載作品・記事


Behind The Scenes 筆書き原稿ができるまで

こんにちは。

みなさんは「これをやってる時が好き」という作業はありますか?

僕がまず挙げるのは筆でマンガの原稿を描いてる時ですね。あれは楽しい、実に楽しい。どれくらい楽しいかと訊かれればキャラクターの髪の毛にハイライト入れてる時くらい楽しいですね。あとはオノマトペ(擬音語・擬態語)を書き入れてる時くらい楽しいですね。……分かりますね?

今回はそんな筆書き原稿がどうやってできているのかを大公開しちゃいます。


筆書き原稿というのは普段のデジタル作画原稿とは違い、筆と墨汁を使って実際に原稿用紙ないし書道用紙に描いたマンガ原稿のことです。全体的に線が太くて力強いのが特徴です。例えば今月号で更新した『お嬢店長おかしまし』第8話の18ページ(最後のページ)なんかがそうです。このページだけ雰囲気全然違うなと感じたはずです。これはいつものデジタル作画ではなかったからです。

用意するもの

前述の通り筆書き原稿でも二つのタイプがあります。一つは書道用紙に書道用筆で描くもの、小学校の書初めの授業を思い出してください。毎月の裏表紙のイラストはこの方法で描かれています。もう一つはマンガ用原稿用紙に細い絵筆を使って描くもの。言うまでもなくこちらの方が規格も合ってて描きやすいので、作品の本編ではこっちの方法を使います。

書道用紙に描く場合、用意するのは

  • 墨汁
  • 書道セット
  • 書道用紙

です。書道セットと言われたら「小学校で使ったアレか」と思いますよね。まさしくそれです。僕は小学校の時に使った書道セットを今日も愛用しています。物持ちがいいんですね。でも実は書道の世界では「子供の頃から同じもの使ってる」は珍しくないことだそうですよ。

原稿用紙に描く場合は

  • 墨汁
  • 丸筆(2~4号くらい)
  • マンガ原稿用紙(B5原寸)

筆っていっても和筆・洋筆、毛が動物のもの、ナイロン製のもの、いろいろあります。僕はこだわりないので画材店で適当に買ったものをそのまま使ってます。日本画用の筆ってのがありますが、水彩筆でも大丈夫。

マンガ原稿用紙とはこれです。どんなにインクを塗ったくってもヘタれない、超高級紙なのです!これが家にあるだけでマンガ家の先生っぽくてカッチョイイのです。B5原寸というのは、仕上がりサイズがB5用紙のサイズだよってこと。マンガ原稿には余白ってものがありまして、この用紙自体はA4サイズなんです。いろいろ目盛りが描き込まれてますね、これに合わせて描いていくと、気分はもうプロです。……調子乗りました。

描き方

では実際に『お嬢おか』第8話18ページを例に筆書き原稿ができるまでを追っていきましょう。

1.ラフを練る

原稿用紙に描く前に、どんなものを描くのかしっかり決めとかないことにはにっちもさっちもいかない。別な紙におおまかな構図を描いてラフ案を練りましょう。今回のラフはこんな感じ。

どん。

すげえ雑。

ラフなんてさあどこに何描くかだけ決めればいいんだから適当でよくない?というスタンスなので毎月の表紙もこんな感じで描いてます。言い訳っぽいこと言うと、筆書き原稿には「粗削り感」が欲しいのであんまり緻密に構成を練りたくないのです。

2.下書き

ではこの雑なラフをもとに原稿用紙に下書きをしていきます。後々消しゴムで消すものなのでそんなにきっちりしっかり描く必要はありません。細かく描きすぎても筆じゃあ繊細な表現に限界がありますので、迷ったら曖昧にごまかしましょう。

不真面目です。

3.筆書き

下書きの線をもとに絵筆でもって命を吹き込んでいきます。手前のものから順番に。マンガ原稿といえばインクで描くイメージですが、墨汁も使用可能です。これが実に馴染む。描いたそばから乾いていくので手につく心配もナッシング。ストロークを意識しながら時に大胆に、時に繊細に描きましょうね。下書きを消しゴムで消したら完成。

できました。

4.パソコンに取り込む

そしたら原稿をスキャナーで取り込みます。カラーで取り込んで、この時点ではまだ目盛りとか残しておかなきゃダメだよ。

お絵かきソフトを起動して取り込んだ画像を開いたら、白い部分を透明化して画像をモノクロ化します。こうすると目盛りは消えてくれます。

モノクロ化すると筆の微妙な濃淡がなくなり、かすれもうまく残らなかったりします。今回はそれを前提に描いたので問題ありませんが、薄墨を使った場合はグレースケールや、そのままカラーで使ったりもします。

5.手直し

ここまで来たらあとちょっと。デジタルの特権、消して直すを駆使して細部の修正です。基本的にはもとの味を残しますが、より丁寧に描きたい顔だとか、パソコンに取り込んだら変な感じになっちゃったな、てところを直します。

最後にガーゼで疑似的な濃淡を作ります。スクリーントーンは「デジタル感」が復活しちゃうので使いません。余談ですが、僕の最近の作品ではグラデーショントーンを一切使いません。画風です。

できました!筆書き原稿の完成です!

夕暮れの街で家族を思うお母様の凛々しい姿がよく映えますね。


筆書き原稿はもっと多用したいという思いと、ここぞというページまで取っておきたい思いの板挟みです。

確実にいえることは、楽しい!


裏表紙

みなさまからのお便りお待ちしております。お便りはこちらから。

次回もお楽しみに!