第5号

オープニングエッセイ 雨宿りの小噺

この欄もしっかり読んでくださってありがとうございます。(逆に、この欄を一番楽しみにしている方がいらっしゃいましたら、それはそれでいかがなものか……)

前回できなかった年末年始のお話を少しします。

年末年始は敢えて原稿を一切書かないということをやってみました。マンガを描くのも字を書くのもWebページの編集も一切合切止めて、活動開始前の生活を疑似的に取り戻す。

するとあのゲーム全然進めてなかったんだよな、とか、理由もなく何かの落書きをしてみたりとか、久しぶりに映画見ようかとか、そんな生活になりました。

しまいには取り留めのない物思いに耽り出す。すると面白いこといろいろ思いつくんですよ。

そうして思ったのは子供の頃こんな感じだったよなあ、と。スマホやSNSなんかそもそも無くって、ゲームやサッカーもそんなにする子じゃなかったので、だいたいこうやって空想に耽る、そんな生活だったなあ。

あの頃の僕が今の僕を見たら、「面白いことしてるね」って言ってくれるんだろうか。

いや、違うかな。

「自分らしいや」って笑ってくれるかな。


連載作品・記事


今月のピックアップ お嬢店長おかしまし第1話

新コーナー、今月のピックアップです。

過去の連載作の中から一話をピックアップして解説やウラ話をしていくコーナーです。本当はいつかの機会まで寝かせておきたかったんですが、うずうずしてる間に話が積もりに積もっちゃいそうなのでここを使って消化していきます。

作者自ら作品の解説なんてけしからん!……と思う方もいらっしゃるでしょう。どっちかといえば僕もそっち側の意見の人間です。自画自賛というか、渾身のギャグを自分で解説する羽目にというか、なんだかお寒い雰囲気がありますからねえ。なのでこのコーナーはコテコテの解説というよりは「ずっと後になってから酒の席で『そういえばあの時のアレはこうだったんだよ~』とカミングアウトする」ような雰囲気、もしくは、「雨宿拾遺の性癖大説明会」くらいのノリでお楽しみください。


当たり前ですが、ネタバレ必至です。ご了承ください。


第一回は看板作品『お嬢店長おかしまし』から記念すべき第一話に関する内容をお届け。このサイトを訪れてくださっている方なら十中八九読んだことがあるはずです。でも一応、

まずはこちらからお読みください。


このお話が僕の描いた長編作品の第一号です。

新しいこと始める時ってドキドキですよね。これまでちまちま短編と落書きしか描いてこなかった自分がこっから先やっていけるんだろうか、描き続けられるんだろうか、と思うことはたくさんありましたが

やっていくうちになるようになるっしょ!

の精神でペンを取りました。絵柄なぞはやっていくうちにシフトしていくものでしょうし、何より作者の趣味にドンピシャな主人公のキャラクターデザインは絶対変わらないという自信があったので、そこが支えでした。いつでも心に寄り添ってくれる存在、まさしく僕のお嫁さんですね。

作品の第1話に求められるのは「どういう作品か分かってもらうこと」です。その点に関して本作は第1話~第3話を実質上の第1話としました(本誌の創刊号に掲載したのがこの三話)。「どういう作品か分かってもらう」ための要素を三分割して、各話に受け持たせたんです。もっと言えば世界観のまとまりまでふくめると、第10話までが最初の一区切りです(この記事掲載時点ではまだそこまでいってません)。

それはそうと、第1話に持たせた役割とはまさに我らが主人公、結子店長もとい神之目結子の人となりを分かってもらうことです。それを念頭に置きながら読んでみると、主人公のキャラ設定についていろいろ分かることがあります。

まず前提として

  • 「神之目不動産」なる超大企業の会長の令嬢で、中辻市なる都会のベッドタウンにある邸宅に住んでいる。高校二年生、ハイソな学校に通っている。

これを見れば「ああ典型的なお嬢様だね」って思うはずです。ところが読んでいくと結子さん、そうでもない。「学校が急遽午前授業になったので迎えを呼ばずに『何となく』自力で帰る」という奇行に走ります。

奇行に、走ります。

そんで帰り道に運命の出会いをします。「だがしやサトー」を見つけるのです。そこの店主のおばあちゃんと仲良くしますが、店がもうすぐ閉店してしまうことを憂いた結子さん、何を思ったか「私がサトー《ここ》の店長になるわ。」とか言い出します。

何度でも言います、奇行です。

これじゃ普通じゃないお嬢様どころか、普通じゃない人です。ま、一見突拍子もないようでいて、全く後先考えぬ行動ではないというのが彼女の面白いところですが。

このように典型的なお嬢様ではないというのが彼女の特徴で、それを表す表現は細部にもあります。

  • 朝食が庶民的(トースト、ヨーグルト、牛乳)
  • 携帯を持ってない(というのはお嬢様っぽいか?)
  • ごく普通に電車に乗る
  • 切符を買えるくらいの現金と小銭を持ち歩いてる
  • だがしに関して一般的な知識がある
  • 古語(???)

とまあ(最後のはさておき)こういった地味なキャラ付けに関する表現はいろいろ描き込みました。何よりお嬢様らしからぬ無防備な寝起き姿で初登場するのが象徴しています。このシーンから始まるってのはいっちばん最初の構想から決めてたことです。

それでね、あんまりこういった表現ばかりしているとこんな間違った印象を与えてしまう懸念がありました。

「結子さんは本当は自分の出自にコンプレックスを抱えているのでは?」

だいたいお嬢様キャラってのは大きく二分できます。「世間知らずで高飛車」か、「箱入りに育てられてそれに辟易してる」のどっちか。結子さんが前者でない以上、後者なんじゃないか?って。確かに彼女も「自分は世間知らずなんじゃないか」という杞憂はありましたが(第2話)、だからといって名家の娘であることを嫌ってはいません。それが分かるのが後半部分。

「私の名前は神之目結子。神之目不動産会長、神之目満爾の娘。」

「古より中辻の地で栄華を極める神之目家が受け継ぐもの――それは――いかなる時も時勢を見極め、正しき道を見出し続けた、神懸の目!」

結子さんは確かに自らの家系に誇りを持っています。彼女が古来より中辻を治めた神之目家の娘であるからこそ、みんなが集まるサトーを守ろうとしたのかもしれませんね。

余談ですが、この第1話を世界で初めて読んだのは僕の友人です。読ませた後にドヤ顔でこの解説をしたら「そこまで分かんねえよ」って言われました。デスヨネー。

さて、この記事の掲載時点で『お嬢おか』は第7話まで公開されています。第7話ではじいやの名字も明らかになりましたが、ここから先はちょっと店長のお家にまつわるお話です。店長のご両親も出ます。神之目家のちょっとした秘密も分かるでしょう。そして作品のタイトルにもあり店長のアイデンティティである古語の理由も、もしかしたら分かるかも……?

店長とサトーを末永くよろしくお願いします。


今回はモロに嫁への愛を語るだけになってしまいましたが、今後もたまにこのコーナーをやります。作者ってものはね、話したがりなんです。じゃなきゃお話なんて書きませんから。


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